■交通事故を原因として発生する3つの慰謝料
慰謝料とは精神的苦痛に対する損害賠償金のことをいいます。
交通事故が原因となり負傷した場合、傷害慰謝料(入通院慰謝料ともいう。)が請求できます。
治療をもってしても後遺障害が残存してしまった場合、後遺障害慰謝料が請求できます。
交通事故が原因となり死亡した場合、死亡慰謝料が請求できます。
■慰謝料を算定するための3つの基準
現在の交通事故損害賠償実務において慰謝料金額の算定基準は3つあります。
それぞれの基準で算定した慰謝料金額は、自賠責保険基準で算定した金額<任意保険基準で算定した金額<裁判基準で算定した金額の順に高額になるのが一般的な傾向です。
自賠責保基準や任意保険会社基準で算定した金額よりも裁判基準で算定した金額の方が数倍以上高額になるケースは珍しいことではありません(むしろ、よくあること、と言っていいかもしれません。)。
それでは、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の具体的な金額をそれぞれ見ていきたいと思います。
以下では、自賠責保険基準で算定したものと裁判基準で算定したものをご紹介します。
*任意保険基準は、個々の任意保険会社が独自で定めた基準であり、一般的なものではないため、本ページでのご紹介は割愛させていただきます(ただし、任意保険会社は営利を目的とする会社であり、できるだけ慰謝料額を低く抑えたいと考えております。そのため、任意保険基準による算定額は自賠責保険基準による算定額に近づく傾向にあります。なかには自賠責保険基準による算定額とほぼ同額となっているケースも。。。)。
■傷害慰謝料(入通院慰謝料)の算定基準
◇自賠責保険基準
日額4200円×通院日数×2、という計算式を用いて算定します。
ただし、通院日数を2倍した日数が通院期間を上回る場合は、4200円×通院期間、という算定式を用いて算定します。
(例1)
治療期間3ヶ月、治療日数30日の方の慰謝料額
4200円×30×2=25万2000円
(例2)
治療期間3ヶ月、治療日数50日の方の慰謝料額
治療日数50日に2をかけた場合、100日となり、治療期間を上回ります。
よって、この場合は、4200円に、治療日数×2を乗じるのではなく、治療期間を乗じます。
4200円×90日=37万8000円
◇裁判基準
以下に1表、2表を記載しました。
原則として1表を使用して算定します。
通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間とすることがあります。
傷害の部位や程度によっては1表により算定した金額を20%から30%増額します。増額するケースとして、例えば脳損傷や大腿骨骨折をした場合が挙げられます。
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | 314 | 321 | 328 | 334 | 340 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | 318 | 325 | 332 | 336 | 342 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | 322 | 329 | 334 | 338 | 344 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | 326 | 331 | 336 | 340 | 346 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | 328 | 333 | 338 | 342 | 348 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | 330 | 335 | 340 | 344 | 350 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | 332 | 337 | 342 | 346 | |
7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | 334 | 339 | 344 | ||
8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | 336 | 341 | |||
9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | 338 | ||||
10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 | |||||
11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | ||||||
12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 | 314 | 326 | |||||||
13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | ||||||||
14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | |||||||||
15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 |
(算定例)
1 入院なし、通院3月の治療を要する傷病を罹患した場合
「入院」0月の列(縦軸)と「通院」3月の行(横軸)とが交差する欄の金額73万円が慰謝料金額となります。
2 入院期間1月、通院期間1月、通院日数15日の治療を要する傷病を罹患した場合
「入院」1月の列(縦軸)と「通院」1月の行(横軸)とが交差する欄の金額77万円が慰謝料金額となります。
3 入院期間6月、通院期間10月、治療日数200日の治療を要する脳挫傷を罹患した場合
「入院」6月の列(縦軸)と「通院」10月の行(横軸)とが交差する欄の金額は294万円です。
脳挫傷は慰謝料を増額させるべき傷病にあたります。
よって、294万円の20%から30%の金額を増額します。
294万円+294万円×30%=382万2000円
よって、この場合の慰謝料金額は382万2000円と算定することになります。
2表はむち打ち症により他覚的所見のない神経症状を罹患した場合に使用します。
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | 204 | 211 | 218 | 223 | 228 | |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | 206 | 212 | 219 | 224 | 229 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | 207 | 213 | 220 | 225 | 230 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | 208 | 214 | 221 | 226 | 231 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | 209 | 215 | 222 | 227 | 232 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | 210 | 216 | 223 | 228 | 233 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | 211 | 217 | 224 | 229 | |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | 212 | 218 | 225 | ||
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | 213 | 219 | |||
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | 214 | ||||
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 | |||||
11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | ||||||
12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | |||||||
13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | ||||||||
14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | |||||||||
15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 | |
(算定例)
1 入院なし、通院期間6月、通院日数30日の治療を要するむち打ち症を罹患した場合
「入院」0月の列(縦軸)と「通院」6月の行(横軸)とが交差する欄の金額89万円が慰謝料額となります。
2 入院1月、通院期間8月、通院日数80日の治療を要するむち打ち症を罹患した場合
「入院」1月の列(縦軸)と通院8月の行(横軸)とが交差する欄の金額125万円が慰謝料額となります。
3 入院なし、通院期間6月、通院日数8日の治療を要する傷病を罹患した場合
この場合は、「通院が長期にわたり、かつ不規則な場合」に該当します。
よって、慰謝料算定の治療期間は、実際の通院期間6月ではなく、通院日数8日に3.5を乗じて算出した29日間ということになります(ここでは便宜上1月と扱います。)。
「入院」0月の列(縦軸)と「通院」1月の軸が交差する欄の金額は19万円です。
よって、この場合の慰謝料額は19万円ということになります。
◇自賠責基準と裁判基準との差異のまとめ
自賠責保険基準は基本的に通院日数に基づいて算定する。
裁判基準は基本的に通院期間に基づいて算定する。
自賠責基準の計算方法は一律。
裁判基準は怪我の重症度に応じて高額な基準となる。
自賠責保険基準での算定額よりも裁判基準での算定額の方が高額になるのが通常。
■後遺障害慰謝料の算定基準
実務上、後遺障害が残存した場合、まずは損害保険料率算出機構による後遺障害等級認定を受けるのが通常です。
自賠責保険から支払われる慰謝料額は等級毎に定められております。
また、裁判所による認定額についても等級毎におおよその相場があります。
等級 | 自賠責基準 | 裁判基準 |
1級 | 1100万円*1 | 2800万円 |
2級 | 958万円*2 | 2370万円 |
3級 | 829万円 | 1990万円 |
4級 | 712万円 | 1670万円 |
5級 | 599万円 | 1400万円 |
6級 | 498万円 | 1180万円 |
7級 | 409万円 | 1000万円 |
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
*1 別表2記載の等級が認定された場合の金額。
別表第1記載の等級(高次脳機能障害)が認定された場合の金額は1600万円。
*2 別表2記載の等級が認定された場合の金額。
別表第1記載の等級(高次脳機能障害)が認定された場合の金額は1163万円。
自賠責保険基準による金額よりも裁判基準による金額の方が2倍から3倍程度高額なものとなっております。
■死亡慰謝料の算定基準
◇自賠責保険基準
死亡者本人の慰謝料 | 350万円 |
遺族の慰謝料 | 扶養者がいなかった場合 | 扶養者がいた場合 |
請求者*が一人の場合 | 550万円 | 750万円 |
請求者が二人の場合 | 650万円 | 850万円 |
請求者が三人以上の場合 | 750万円 | 950万円 |
*請求者とは、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)をいいます。
(算定例)
死亡された人物に「請求者」がいない場合
自賠責保険から支払われる慰謝料額は350万円となります。
死亡された人物に請求者が二人いる場合(但し、死亡された人物による扶養者なし)
自賠責保険から支払われる慰謝料額は、死亡された人物の慰謝料額350万円と請求者二人の慰謝料額650万円とを合わせた1000万円となります。
◇裁判基準
死亡された人物の家庭内での地位によって認定される慰謝料金額が異なります。
死亡された人物の地位 | 死亡慰謝料の金額 |
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2400万円 |
その他 | 2000万円〜2200万円 |
1 「その他」とは、独身の男女、子供、幼児などを言います。
2 本基準は死亡慰謝料の総額であり、民法711条所定の者とそれに準じる者の分も含まれている、と言われています。
ただし、裁判例のなかには、上記金額を上回る金額を認めたものも多くあり、遺族固有の慰謝料の全てが上記金額に含まれている、とは言い切れないのではないか、と考えております。
◇自賠責保険基準と裁判基準との金額の差異
自賠責保険基準による金額は「請求者」の数と「扶養者」の有無によって変動する。
裁判基準による金額は、主に死亡本人の家庭内における地位によって変動する。
自賠責保険基準による算定額は、請求者(遺族)の数によって大きく変動し、下限は350万円、上限は1300万円となる。
裁判基準による算定額は遺族の数による自賠責保険ほどの変動はない。
死亡者本人の地位に応じての目安とされる金額(2000万円から2800万円)が算定される。
■ 裁判基準で慰謝料を請求するには
上記でご紹介したとおり、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料のいずれについても、自賠責保険基準で算定したものよりも裁判基準で算定したものの方がはるかに高額になります。
任意保険基準で算定した金額も自賠責保険基準で算定した金額に近い金額になるのが通常ですので、任意保険基準で算定した金額<<裁判基準で算定した金額、ということになります。
よって、交通事故の被害者としては裁判基準で算定した慰謝料額を加害者に対して請求したいところです。
しかし、保険会社は、被害者が弁護士に依頼しない限り、決して裁判基準で算定した慰謝料の支払いを了解しません。
それは、裁判基準は裁判所による判決を前提とした基準であるところ、訴訟の遂行は困難であるため、個人では訴訟提起はしないだろうと判断されるためです。
被害者が、裁判基準で算定した慰謝料を請求するには、弁護士に依頼する必要があるのです。
ところで、弁護士に依頼すれば、弁護士費用が多くかかります。
弁護士費用がかかってしまえば、慰謝料額を裁判基準で算定したとしても、結局は損が出てしまうのではないか、そのような心配をお持ちになるかもしれません。
しかし、以下の理由により、そのような心配は必要ありません。
① 裁判所基準により算定した金額と自賠責保険により算定した金額との差は弁護士費用よりも大きなものであるのが一般的です。つまり、弁護士費用を支払ったとしても、依頼された分だけの利益を残すことができるのが通常です。
② 弁護士費用特約に加入されていれば、保険会社が弁護士費用を負担してくれます。
③ 桜風法律事務所では、依頼者に利益を残すことができるように、一般的な相場よりも低い弁護士報酬を設定しております(ただし、弁護士費用特約にご加入の場合は、保険会社の報酬基準に沿った報酬額をいただきます。)。
④ ご相談の際に、依頼者にとって経済的な利益をもたらすことができるのか十分に吟味し、その見込みをお伝えしたうえで、ご依頼いただくか検討していただきます。
以上のとおり、裁判基準で算定した慰謝料を請求するには弁護士に依頼することが必要です。
桜風法律事務所は、傷病慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料ともに、裁判基準で請求してきた実績があります。
慰謝料を請求する状況に立たれた場合には、桜風法律事務所までご相談ください。